株式会社鳥影社 お気に入り
αとω(アルファとオメガ)
あらすじ
冒頭、ヒト細胞のαが語り始める。作品の舞台は福島県双葉町。2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原発の事故で世界的に有名な町で、10年経過した今も、帰還できない多くの人々がいる。
αは精子の細胞で、この作品の主人公の光一となって福島県双葉町に生まれた。福島第一原発の事故による放射能汚染で彼の実家は帰宅困難区域に指定された。一家はいくつかの避難所を経て栃木に落ち着いた。
死んだヒト細胞ωが、チェルノブイリ原発の悲劇を語り始める。同時に、αは茨木県東海村の核燃料加工施設「JOC東海事業所」で1999年に発生した臨界事故の被曝者が死に至るまでの経過を語り始める。
この物語は、光一の物語とパラレルに語られ、原発がもたらす悲劇を訴える。放射線は遺伝子を傷つけ、細胞が分裂する能力を奪ってしまう。「原発は原爆と同じものなんだ」。
中学生になった光一は、繊細で感受性が高く、他人の心の影響を受けやすいエンパス(empath)。ネットで見つけたフクシマ・ネオプロジェクトというNPOに参加し、主宰者の須賀武志からさまざまな学びの機会を与えられて成長し、フクシマップの制作に参加する。
フクシマップとは帰宅困難区域に住んでいた人々が思い出や夢を、本人たちの語り、音楽、写真、テキストなどでネットの地図に記して、廃墟を「人の生きる町」として再構築するプロジェクト。「思い出で原子力発電所に対抗する」ことが目的である。
鬱を患っていた武志は自殺したが、光一はサブリーダーの助力を得てフクシマップの制作を続ける。東京の国会図書館で震災当時の双葉町の地図を入手、双葉町の知り合いの電話番号を探して避難者へ連絡し、各地の人々を訪ねてフクシマップ制作のための取材を続けた。
フクシマップのテスト版をNPOの人達にお披露目する会が開かれ、光一は武志の母と会い、自分が特殊な力を持つこと――他人の感情、思い出や夢などを感知できることに気づく。
やがて相馬という小学生時代の親友が父親を捜しに上京した。二人で相馬の父のアパートを訪ねるが、父親はいなかった。その部屋に飾られた広い海と一人の人物を描いた不思議な絵の世界に入り込んだ光一は、もうこの世にいないらしい相馬の父のメッセージ「ニトドオナジコトヲクリカエサナイヨウニ」を聞く。
そして、光一たちは時間の渦に巻き込まれ、生物進化の歴史を遡行し、細胞の発生する瞬間に至る。
原発事故の恐怖と核災害から生まれた人々の生活と人生を描いたこの小説は、フィクションでしか伝えられない現実の悲惨さや悲しみを鋭く読者に突きつける。
著者紹介
村上 政彦(むらかみ まさひこ)
1958年、三重県生まれ。作家。
業界紙記者、学習塾経営などを経て、
87年「純愛」で福武書店(現ベネッセ)主催・海燕新人文学賞を受賞。芥川賞の候補に数回ノミネートされている。映像化作品である「あ、春」は第49回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。
作品に「台湾聖母」、「ドライブしない?」、「ナイスボール」など。
日本文藝家協会常務理事。日本ペンクラブ会員。
シリーズ名 | --- |
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発行年月 | 2021年8月 |
本体価格 | ¥1,500 |
サイズ・版型 | 四六判(127×188) |
ページ数 | 188ページ |
内カラーページ数 | --- |
ISBNコード | 9784862659064 |
ジャンル | 文芸・文庫 > その他 |
映像化・ メディアミックス実績 |
なし |