筑摩書房 お気に入り
東京の生活史
あらすじ
オリンピックが開催されるはずだった、コロナ禍ど真ん中の2020年、150人の聴き手が150人の語り手に「東京での生活」についてインタビューした「オーラルヒストリー」。市井のまったく無名の人たちの極私的な経験でありながら、どれもが一篇の映画になりそうな物語性を湛えている、圧巻の1216頁。ブルデューやスタッズ・ターケルの仕事に比肩する、後世に残る作品。毎日出版文化賞、紀伊國屋じんぶん大賞受賞。
人生とは、あるいは生活史とは、要するにそれはそのつどの行為選択の連鎖である。そのつどその場所で私たちは、なんとかしてより良く生きようと、懸命になって選択を続ける。ひとつの行為は次の行為を生み、ひとつの選択は次の選択に結びついていく。こうしてひとつの、必然としか言いようのない、「人生」というものが連なっていくのだ。(……)そしてまた、都市というもの自体も、偶然と必然のあいだで存在している。たったいまちょうどここで出会い、すれ違い、行き交う人びとは、おたがい何の関係もない。その出会いには必然性もなく、意味もない。私たちはこの街に、ただの偶然で、一時的に集まっているにすぎない。しかしその一人ひとりが居ることには意味があり、必然性がある。ひとつの電車の車両の、ひとつのシートに隣り合うということには何の意味もないが、しかしその一人ひとりは、どこから来てどこへ行くのか、すべてに理由があり、動機があり、そして目的がある。いまこの瞬間のこの場所に居合わせるということの、無意味な偶然と、固有の必然。確率と秩序。本書もまた、このようにして完成した。たまたま集まった聞き手の方が、たまたまひとりの知り合いに声をかけ、その生活史を聞く。それを持ち寄って、一冊の本にする。ここに並んでいるのは、ただの偶然で集められた、それぞれに必然的な語りだ。だからこの本は、都市を、あるいは東京を、遂行的に再現する作品である。本書の成り立ち自体が、東京の成り立ちを再現しているのである。それは東京の「代表」でもなければ「縮図」でもない。それは、東京のあらゆる人びとの交わりと集まりを縮小コピーした模型ではないのだ。ただ本書は、偶然と必然によって集められた語りが並んでいる。そして、その、偶然と必然によって人びとが隣り合っている、ということそのものが、「東京」を再現しているのである。(岸政彦「偶然と必然のあいだで」より抜粋)
著者紹介
岸 政彦(きし・まさひこ)一九六七年生まれ。社会学者・作家。立命館大学教授。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、二〇一三年)、『街の人生』(勁草書房、二〇一四年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、二〇一五年、紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、二〇一六年)、『ビニール傘』(新潮社、二〇一七年、第一五六回芥川賞候補、第三〇回三島賞候補)、『マンゴーと手榴弾──生活史の理論』(勁草書房、二〇一八年)、『図書室』(新潮社、二〇一九年、第三二回三島賞候補)、『地元を生きる──沖縄的共同性の社会学』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、二〇二〇年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、二〇二一年)、『リリアン』(新潮社、二〇二一年、第三四回三島賞候補)など。
シリーズ名 | --- |
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発行年月 | 2021年9月 |
本体価格 | ¥4,200 |
サイズ・版型 | A5判(148×210) |
ページ数 | 1216ページ |
内カラーページ数 | --- |
ISBNコード | 9784480816832 |
ジャンル | 人文・教養・教育 > 人文・教養・教育全般 |
映像化・ メディアミックス実績 |
なし |